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【連載】「眼鏡の社会史」(白山晰也著)第一回


弊社四代目社長の白山晰也が記した著書「眼鏡の社会史」(ダイヤモンド社)を今回より連載形式で無料公開いたします。
この本は眼鏡の誕生から現在の普及まで、まさに眼鏡の歴史がここに紐解かれていくという内容になっております。
日常に使われている眼鏡が長い時間をかけてどのように変化していったかをご覧いただければ幸いです。

表紙
第一部 伝来

第1章 眼鏡の誕生

1 古代から中世まで
レンズの発見
眼鏡が誕生したのは、いつごろのことだろうか。
紀元前の古代から、ある種の「石」をレンズとして使っていた証拠は多い。
現存する最古のレンズは、紀元前700年頃の古代ニネヴェの遺跡から発見されている。
個のレンズは直径約3.8センチメートル、焦点距離約11.4センチメートルの研磨された水晶の平凸レンズである。
このレンズの使用目的は太陽光を集めるもので、視力を助けるものではなかった。

中国においても、視力を補うものとしてではなく、不老長寿の縁起ものや、魔除け用として天然石のレンズを使っていたらしい。

ローマ皇帝ネロがエメラルドのレンズを用いて、剣闘士たちの戦いを観戦していた話は光学の分野では有名な話である。
これはローマの著述家、プリニウスが書き残したものである。
このことから、一時、ネロの近視説が流れたが、今ではまぶしい光線から目を守るための保護レンズとして用いられていたという解釈が一般的である。

このように古代においても、ある種の天然石の光学的特性の一部は利用されていた。
しかし、視力を助けるために使われていた証拠はない。
ローマの弁論士キケロの手紙には、年をとって文字が読めなくなり、彼の奴隷に朗読してもらう苦痛を友人に訴えたものがあるが、もちろん眼鏡をかけていたという記述はない。

つまり、古代エジプト人、ギリシャ人などのあいだでは、光学理論は発達したが、レンズと視力の結びつきについては考えがいたってない。

中世になっても、依然として視力を助ける用具は開発されていない。
老眼になった人々のためには、こんな治療法なるものが勧められている。
「年を取ると眼は鮮明でなくなる。だから老人たちは、マッサージをしたり、歩いたり、乗り物に乗ったりすべきである。
また、老人をワゴンにのせ、運んだりもしたほうがよい。
そして、食事はごく少量を注意深くとり、髪に櫛を入れ、食前にはニガヨモギを飲むとよい」というものである。

リーディングストーンの発見
適度にカットされた光学レンズを使うと視力が助けられる可能性を最初に発表したのは、
アラビアの数学者であり、物理学者、天文学者でもあったアルハーゼンである。
彼は目のしくみを調べ、物が見える現象を解明した最初の人であり、また、球面鏡、凹面鏡などの原理を明らかにした。
しかし、彼は理論の施行から実際の結論を導くことなく終わっている。

1266年になり、このアルハーゼンの著書がラテン語に翻訳され、多くの修道院で修道士に読まれるようになった。
そしてこの時期、各地で眼鏡の開発がにわかに活発になる。
これはアルハーゼンの著書に触発されたためと考えられている。

その一つは、リーディングストーンの発見である。
それは、ドイツで、ある修道士によって発見されたものではあるが、石英または、水晶で出来た平凸半球レンズであった。
これを用いることによってこの老眼の修道士は、仕事を続けることが可能になったという。

これは物体を拡大して見る今のルーペのようなもので、たぶん、本のうえに直接のせて使用したものだろう。
このリーディングストーンが最初の視力を助ける用具ではないだろうか。

ドイツでは、このリーディングストーンがかなりポピュラーなものになっていたようだ。
そして、これに使われた石は準宝石ベリルがあり、これがドイツ語の眼鏡、ブリレの語源となっている。

眼鏡と聖者たち
リーディングストーンが修道士たちによって発見されたからであろうか。
中世の終わり近くになったころ、眼鏡の発明は聖者たちだといわれていた。

その一人は、ヒエロニムスである。
この教父は、中世絵画の中で数えきれないほど描かれているが、
その絵には常に三つの象徴、すなわち、ライオン、しゃれこうべ、眼鏡がともに描かれている。
そして彼は、ヨーロッパにおいて眼鏡発明者とされ、眼鏡関連の守護聖人として尊敬されていた。

もう一人、弱視者や眼鏡装用者の守護聖人として、福音史家の聖ルカがいる。
宗教画の中には聖母マリアの死を描いたものがあるが、
この絵は、死の床にある聖母マリアの前に十二人の使徒が立っているものである。
この中の一人が本を開いて臨終の祈りをささげている。
そして、その使徒が眼鏡をかけている絵が多い。これが聖ルカである。
もし、聖ルカがほんとうにメガネをかけていたのなら、眼鏡はキリスト存命に発明されていたことになる。

このほか、ドイツの上ライン地方では、聖フリードリンが眼鏡発明者とされ、守護聖人をして敬われている。

しかし、これらはいずれも伝説にすぎず、聖者たちが眼鏡を発明したという証拠はまったく存在しない。
聖ルカの絵は、みなが尊敬の念を抱くよう描かれたもので、
この絵が描かれた当時、すなわち、十四世紀の風俗が描き込まれただけなのである。
つまり、眼鏡がいかに博学のシンボルであったかの証拠として描かれているのである。(続きはこちら

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