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【連載】「眼鏡の社会史」(白山晰也著)第六回


弊社四代目社長の白山晰也が記した著書「眼鏡の社会史」(ダイヤモンド社)の無料公開連載の第六回です。
老舗眼鏡店の代表であった白山晰也が眼鏡の歴史について語ります。
今回は贈答品としての眼鏡についてです。前回はこちら

3 贈答品としての眼鏡
南蛮渡来の眼鏡
以上、眼鏡がイエスズ会宣教師フランシスコ・ザビエルによって日本へもたらされたことを明らかにしてきた。
ザビエル以後、眼鏡をはじめとするヨーロッパの文物は多くのイエスズ会士によって、あるいはポルトガル商人によって、陸続と日本へもたらされることになるのだが、それらヨーロッパの文物を自らのものとして愉しむことができたのは、ごく限られた人たちであったのはいうまでもない。
なぜなら、そのほとんどが大名、領主層への贈り物として使われたのであって、ポルトガル貿易、といっても実態は日中の中継ぎ貿易なのだが、その取引き商品となるようなものではなかったからである。
そのことはイエスズ会の布教方法とも密接にかかわる問題であった。
というのは、イエスズ会のとった布教方法が、まず大名、領主層をキリスト教に引き付け、次いでその支配下にあった「奴隷のような農民」をまとめて改宗させようとしたものであったからである。
そのための手段としてポルトガル船による貿易が利用された。
つまり、イエスズ会士は布教に好意的でない大名の領内にはポルトガル船を差し向けず、他の大名領へと交易地を移すのである。

一方、ポルトガル貿易による巨大な利益に眩惑された大名は、宣教師を厚遇し、また、自らもキリスト教に入信したりした。
その典型的な例が、一五六二年(永祿五年)の肥前横瀬浦の開港と、領主大村純忠の受洗であろう。
一五五七年以来、平戸でのキリスト教排斥が激しくなり、領主松浦氏もキリスト教徒を圧迫するに及び、ついにポルトガル船の交易地はイエスズ会士の斡旋によって、大村領の横瀬浦へと移された。
はからずも領内にポルトガル船を迎えることになった大村純忠は、その後しばしばイエスズ会士やポルトガル人との親睦を重ね、一五六三年には自ら洗礼(教名ドン・バルトロメウ)を受けている。
当初、受洗の目的がポルトガル貿易の利益を得るためであったことは疑いを入れない。
その結果、大村純忠が得たものは、ポルトガル船のカピタン、ドン・ペドゥロ・ダ・ゲラから、彼がもっていた金塗の寝台、琥珀織の敷布団、ビロードの座蒲団、ベンガル絹の寝台カバー、ポルトガルの葡萄酒入りの大きい網瓶、愛玩用の子犬、さらに宝石のついた金の指輪、金の鎖、緋色のマント、ビロード帽、シャツ、ズボン下、ハンカチ、頭巾、その他、さすがまめなフロイスにしてすら思い出せないくらい多くの品々であった。

この大村純忠のように、ヨーロッパ、南蛮の文物を自らのものにできたのは、彼がキリスト教へ改宗した結果であった。
イエスズ会の側でも、大名、領主層との接触をもつときには必ず珍しいヨーロッパ、南蛮の文物を贈り物として持参することも心がけてもいた。
眼鏡がそのような珍しいヨーロッパ、南蛮の文物の一つであったことは、ルイス・フロイスの巡察使アレッサンドロ・ヴァリニャーニの書簡(一五七七年八月十日、天正五年七月二十六日付)によくあらわれている。
そこでは「彼らが珍重する好き物として今予が思ひ当れるは、ポルトガルの帽子に琥珀又は天鵞絨の裏あるもの、砂時計、ビードロ(硝子器)、眼鏡、コルドヴァの製革、天鵞絨又はグラン(此語不明)の財布、刺繍ある上等の手巾、瓶入金米糖、上等の砂糖漬、蜂蜜、ポルトガルの羅紗のカッパ、(略)」といっている。

アレッサンドロ・ヴァリニャーニは、一五七九年七月に日本巡察使として初めて来日するが、フロイスはその来日前、まだマカオにいたヴァリニャーニ宛に、日本の習慣として、
高貴な人を訪問するときには身分相応の贈り物を持参することを教えているのがこの書簡である。

この贈り物の習慣について、フロイスは「日欧文化比較」の中でも、「われわれの間では人を訪れる者は何も持っていかないのがふつうである。
日本では訪問の時、たいていいつも何かを携えていかなければならない」と、ヨーロッパとの習慣の相違を指摘している。

ところで、フロイスのヴァリニャーニ書簡で、贈り物として日本人に喜ばれるものの一つに眼鏡をあげている。

このことについて岡本良知氏は、ヨーロッパの物資は当時商品として有利なものではなかったが、日本の上流階級の一部のものには需要せられたとして、このフロイスのヴァリニャーニ書簡を引用し、その半ばはヨーロッパの精製品であるとしている。
ともかくこの岡本説に従えば、眼鏡はヨーロッパの精製品として、イエスズ会との関係を有した上流階級に需要されたのであり、このようにしてザビエル以後、日本へ浸透していったと考えるべきであろう。(続く)

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